まめ子の独白

どん底から這い上がり続けた日々を振り返っています

浴衣に想う

小学生、最後の夏。

 

近所の小さな神社では、毎年夏祭りがあり、そこでは小さな花火が打ち上げられる。

 

祭りといえば露店の賑わいもあるが、思春期を迎えつつある私の楽しみは、浴衣で外に出るという、公然とおしゃれをしても許されるような空気感にあった。

 

赤やピンク、白・・・いろんな色の浴衣が目に浮かび、”私にはどんな色があるかなあ・・・”と妄想する。

 

お祭りの当日、私は友達と浴衣を来て出かける約束をしていた。

妄想では色とりどりな浴衣がならんだが、実際に着る浴衣は、母が用意していた”ピンクの”浴衣であった。

もちろん着付けも母である。

 

背筋がしゃんとしない私を、母が強引に引っ張りながら着付けをしていく。

母は着付け教室に通った経験があり、着付け自体はお手のものだ。

・・・私の姿勢がよければの話だが・・・。

 

引っ張られる母の手に、私の体は何度となく大きく傾く。

そのたびに、母の怒りに混じったため息が、私の耳を通過する。

 

お世辞にも丁寧とは言えない着付けもなんとか終わり、鏡をみてみると・・・

そこに映ったのは、真っ黒に日焼けした肌の、いかり肩の少女。姿勢のせいなのか、すでにでも着崩れしそうな心もとない姿。

浴衣の色は、白とピンクであったが、真っ黒な肌よりも、色白の方が似合うだろうとひそかに思ったが、すぐに胸にしまった。

妄想での可愛らしい姿とは、雲泥の差だ。

 

そんな姿でも、いつもと違う私にワクワクし、髪の毛をそっと、耳にかけた。それだけでおしゃれ気分になっていたし、そう簡単にしてはいけないものだと思ってもいた。

 

そうこうしている間に、外で友達の声がした。

赤と黄色のかわいらしい浴衣を着て遊んでいた。

 

その友達の姿をみた母は、姿勢も反応も思い通りにいかない娘に対し、こう言った。

「あの友達はかわいいね。浴衣も似合ってるね。だけど、あんたはかわいくない。浴衣なんか似合いもしない。への字口のいかり肩だからね。」

 

・・・図星だった。それをストレートに言われたことは悲しかったが、悔しさが勝って、誰にも見られぬよう、トイレに入ってむせび泣いた。

 

お祭りに行ったかどうかは覚えていない。

リビングに飾られた七五三の時の写真をみるたびに、浴衣は似合わないかもしれないとは思っていたが、この疑いは確信に変わった。

 

それでも、浴衣は着る機会があれば着た。

かならず”似合わないけれど”という前置きを付け加えて。

悔しがりやという性質は、チャレンジャーでもあるのかもしれない。